- 損切りできないのは意志が弱いからではなく、損失を実際以上に重く感じるという、人間に共通する心の仕組みによるもの
- 人は「利益はすぐ確定し、損失は先送りする」傾向があることが、実際の売買データでも確かめられている
- 対処の基本は、感情が動く前にルールを決めておくこと。「もし〜なら、〜する」の形にすると守りやすい
含み損が出ているポジションを前にして、「もう少し待てば戻るかもしれない」と考えたことはないでしょうか。損切りのラインを決めていたのに、いざその価格に近づくと動かしてしまう。そして、損失がさらに広がってから手放す。
私自身、裁量トレードで何度もこれを繰り返しました。当時は「自分は意志が弱い」と思っていましたが、これは多くの人に共通する心の仕組みだと、後から知りました。
損失は、同じ金額の利益より重く感じる
心理学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーは、人が損と得をどう感じるかを研究し、「プロスペクト理論」としてまとめました(1979年)。その中心にあるのが損失回避という性質です。
人は、同じ1万円でも「1万円得をしたうれしさ」より「1万円損をしたつらさ」を強く感じます。研究によって幅はありますが、損失はおおむね同じ額の利益の2倍前後の重さで感じられる、と報告されています。
損切りとは、まだ「含み損」の状態にある損失を、自分の手で「確定した損失」に変える行為です。損失をそれだけ重く感じるのですから、確定させる決断が先延ばしになりやすいのは、むしろ自然なことです。
「利益は早く、損失は遅く」は、データにも表れている
経済学者のハーシュ・シェフリンとメイヤー・スタットマンは、投資家が「値上がりした銘柄は早く売り、値下がりした銘柄は持ち続ける」傾向を気質効果(ディスポジション効果)と名付けました(1985年)。その後、テランス・オーディーンが個人投資家の実際の売買記録を分析し、この傾向がはっきり存在することを示しています(1998年)。
FXに置き換えると、こうなります。
- 少し利益が出ると、減るのが怖くてすぐ決済してしまう
- 損失が出ると、確定させたくなくて持ち続けてしまう
この2つが重なると、勝ちは小さく、負けは大きくなります。勝率がそれなりに高くても、トータルではお金が減っていく、という形です。
「取り返したい」が、判断をさらに曇らせる
損失を抱えると、「この損を取り返してから終わりたい」という気持ちが生まれます。すると、普段なら入らない場面でエントリーしたり、ロットを大きくしたりしがちです。
ここで起きているのは、目の前の相場ではなく「自分の損」を基準に判断している状態です。相場は、あなたがいくら負けているかを知りません。取り返したい気持ちと、次のトレードに優位性があるかどうかは、まったく別の話です。
対処法:感情が動く前に、ルールを決めておく
損失回避は人間の性質なので、「次こそは冷静に」と意気込んでも、同じ場面が来れば同じ感情が出てきます。大切なのは、感情が動く場面で判断しなくて済むようにしておくことです。
- エントリーする前に、損切りの位置を決めるポジションを持ってからでは、損失回避の影響を受けた判断になります。入る前の、損も得もない状態で決めます。
- 「もし〜なら、〜する」の形で書いておく「価格がここに来たら、理由を考えずに決済する」のように、条件と行動をセットにします。心理学では「実行意図」と呼ばれ、目標を守りやすくする方法として研究されています。
- 1回の損失の上限を、口座の何%と決めておく金額ではなく割合で決めると、負けが続いても口座が一気に減ることを防げます。
- 損切りしたら、その日は取り返しに行かない「取り返したい」が一番強いのは、損切り直後です。その日は終わりにする、と先に決めておきます。
- 守れたかどうかを記録する損益ではなく「ルールを守れたか」を記録します。損切りできた日は、損をしていても「ルールを守れた日」として数えます。
まとめ
損切りできないのは、あなたが特別に弱いからではありません。損失を重く感じ、確定を先延ばしにしたくなるのは、人間に共通する心の動きです。
だからこそ、気合いではなく仕組みで対処します。判断が必要な場面を、感情が動く前に済ませておく。それだけで、トレードの結果だけでなく、相場と向き合うときの疲れ方も変わってきます。
1回の損失をどこまで許すか、成績表のどこを見ればよいかなど、数字で判断するための考え方を、姉妹サイト「ナビスタ」のコラムでまとめています。
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